本療法に関しては、上述の通り整形外科領域ではアスリートを中心に国内外で普及していますが、まだ十分なエビデンス(医学的根拠)が確立されているとは言えず、現時点では臨床経験則に基づいた治療と言えます。個人の自然治癒力を利用しているため、治療効果に部位差や個人差があり、治療効果を保証するものではない旨をあらかじめご了承ください。病態によっては複数回の治療が必要となります。とくに変形性関節症に対する治療については、病態や痛みを生じるメカニズムは個々に異なり単一なものではないため、それ単独で治療を完結できるものではなく、多くの場合は運動器リハビリテーションなどの他の治療法との併用も必要となります。ただし、ステロイド等の薬剤を使用せず、ご自身の血液のみを用いた治療であるため、安全性が高く大きな副作用は生じ得ないという点で、他の治療による難治例や手術療法をできる限り回避したい場合には検討の価値がある治療法と言えます。一般には2~3回前後の治療を受けられる方が多いですが、病態に応じて治療間隔を決め、治療効果を確認しながら次の来院日を決めていきます。
昨今、世界中に数多くのPRP作製キットが流通しており、精製されるPRPの組成は製品間で必ずしも同一ではありません。白血球が多く含まれたPRP(高白血球PRP)、白血球の少ないPRP、その他、治療に際していずれのPRPを用いるべきかは議論の多いところです。本邦で臨床使用可能な厚生労働省認可の高度医療管理機器(クラスIII)として認められているPRP作製キットは現在4製品ありますが、その多くが高白血球PRPです。高白血球PRPは様々な優れた作用をもつ反面、正常な軟骨に影響を与える可能性が実験レベルでは示唆されていますが、臨床レベルで証明されたわけではなく、患者さん個々により病態は異なりその多くは単一なものではないため臨床所見や画像所見だけでクリアカットに使い分けるのは困難です。 私どものような小さなクリニックにとって大切なのは信頼性の高いキットを用いてできるだけ簡便で安全性の高い治療を行うこと、また1人でも多くの患者さんが痛みから解放されるよう価格面でのハードルを可能な限り下げることと考えています。当院では関節内投与となる第二種再生医療に関しては、安全性を最優先し、上述の厚生労働省認可の高度医療管理機器(クラスIII)製品をバッフィーコートと呼ばれる遠心分離後の血小板・白血球層の量を微調整して使用しています。また筋・腱・靱帯への投与となる第三種再生医療に関しては、スポーツ選手や学生の患者さんが治療を受けやすいように、安全性と低価格性とを両立させた、欧州ISO 13485/CE Mark Class IIa取得、米国FDA認可のPRP作製キットを使用しています。
次世代型PRPと表されるAPS(Autologous Protein Solution:自己タンパク質溶液)療法も当院で提供が可能です。APSは前述のように従来の高白血球PRPを脱水・濃縮し抗炎症作用を増幅させた高濃度PRPで、強い消炎効果や長期間の持続効果が期待されています。関節内で炎症を引き起こす炎症性サイトカインと言われるタンパク質の活動を阻害し、炎症バランスを改善することで痛みを軽減し、軟骨の変性や破壊を抑えようとする治療です。APSは欧米でのデータから単回投与での効果持続性が期待できます。しかし、PRP同様すべての方に効果を確実に保証できるものではなく、作製キットそのものが非常に高価なのが現状です。従来型PRPで効果が得られる方はPRPベースのAPS治療にも同様な効果を示すであろうことは容易に想像がつきます。費用対効果に不安を抱かれる方には、まずはPRP治療で効果を試してみてからAPS治療を行うのも一法です。PRPでは効果が得られない重度の関節症の方をAPS治療で救うことができれば、1人でも多くの方が手術を受けることなく痛みから解放されればと願っていますが、それには今後各医療施設のデータの蓄積や研究が必要であり、その成果が待たれます。